サラリーマンの仕事の後、夜7時ころ仕事をしていた。
だれもいない廃屋の2階の事務所は、とても静かだった。
遠くから家族団欒の声や自動車のクラクションが、遠吠えのように細く響いてくるだけだ。
静けさを破るように、壁の向こうで何かが這いまわる音がした。
仕事の手を止めて壁の方を見た。
音は止んでいた。
気のせいかと思い、仕事を続けていた。
しばらくすると、また音がした。
天井裏からだ。今度は鳴き声も聞こえた。
ねずみが駆け回っている。
入居するときに、バルサンとネズミ忌避剤を焚いたのに、戻ってきたのだ。
1階の倉庫は大家さんが畑で作った作物が置いてあるし、2階の別の部屋(私が利用できる契約なのだが)にも、ゴミが散乱しており、ねずみには格好の冬越し場所だ。
大家さんがいっこうに処分しないので、冬を前にしてねずみが戻ってきたのだろう。
集中できないので仕事を切り上げることにして、大家さんにねずみがいることを電話で伝えた。
次の日、大家さんはネズミ捕りシートをあちこちに仕掛けた。
大家さんに言われたわけではないが、2階の方は自分で購入してネズミ捕りシートを置いておいた。
自分の身は自分で守るしかない。他人(大家さん)を当てにしていては何も進まない。
翌日、大家さんのシートで5匹捕まった。私のシートにはかかっていなかった。
大家さんが大げさに戦果を報告してきて、ねずみの悪賢さをさんざん非難する。
でも、2階の不用品とゴミを片付ける気はないようだ。
私はこれがねずみが居ついてしまう原因だと思っている。
”ねずみ戦争”の根本原因を断ち切ってくれれば、安心できるのだが・・・・
そういえば、捕獲した”捕虜”の処分はどうするのだろうか?
不燃ゴミでもないし、生ゴミだろうか?
ベテランの大家さんの答えは明快だった。
「焼却炉でごみと一緒に焼く」
火焙りか・・・
昔は川に行き、橋の上から落としていた。
水責めか・・・
意外と軽くて水に沈まず流れて行ったので、ゴミを捨てたみたいで嫌な気がしたのでやめた。
あとは畑の端の方に穴を掘って埋めたこともある。
生き埋めか・・・
いつのまにか犬か猫かが掘り返して、悲惨なことになった。
はじめて焼却炉で焼いたとき、着火剤を使わずに普通のゴミみたいに火をつけた。
不完全燃焼でうまく焼けてなくて、そりゃもう大変だった。
ねずみも苦しんだのでは・・・
”ネズミ戦争”は泥沼化の様相を帯びてきていた。
次の日も、大きめのシートにちっちゃいねずみが1匹かかっていたという戦果報告があった。
大家さんいわく、そのシートはまだ大きな空きがあり、もったいないからそのまま仕掛けているという。
ベトナム戦争の映画で見たことがある、負傷兵を殺さず生殺しにして、助けに来た仲間を狙い撃ちする戦術か?
経済の論理が”ねずみ戦争”を惨たらしくしていく。
何十年も農業をしている大家さんにとって、生活がかかっている。
”ねずみ戦争”には妥協の余地はない。
私にとっては、あちこちかじったり糞をまきちらしたりしなければ無害である。
大家さんに2階のゴミや荷物を処分する紛争調停の提案を試みた。
大家さんは顔をしかめて、「寒くなって身体が動かない」的なことをゴニョゴニョと言ったきり、口をきいてくれなくなった。
我々に”ねずみ戦争”を回避することはできないのだろうか?
理想と現実、倫理に悩みながら、”ねずみ戦争”は続いていく。
ちゅうかっ!!大家さん2階のゴミを片付けて~~~(ToT)/