知人に、知り合いの自宅のパソコンの調子が悪いので、見るよう頼まれた。
知人は私の個人事業のことを知っている。
彼の知り合いはいろいろと顔の広い人とのことで、彼は気を使って私を紹介してくれたようだ。
日曜日に自宅にお伺いした。
パソコン自体は特に問題なく、ハードディスクが容量限界近くまで使い切っているためファイルの保存ができなくなっていただけだった。
外部のハードディスクにファイルを移動させることにした。
データサイズの大きいたくさんのファイルを外部のハードディスクに移動するのはかなり時間がかかる。
待っている間コーヒーをご馳走してくれ、いろいろな雑談や関連する会社の話を教えてくれた。
突然、勤め先の会社を聞かれ、不意打ちに弱い私は反射的に本当の会社名を言ってしまった。
すると相手の顔がぱっと変わり、「xxさん、知ってるか?」と言った。
同じ名字の人はたくさん知っているが、会社関連だと産休中の女性だけだ。
相手は彼女の両親と知り合いで、彼女のことをよく知っているようだった。
それから彼女の近況の話をしてくれ、仕事への復帰が会社によく思われていないという話をした。
確かに同族会社なので前近代的な考えが支配していて、結婚したら退職か産休中に辞めさせることが多い。
彼女も会社と復帰について交渉しているようだが、役員に圧力をかけられて難航しているらしい。
相手は会社の役員のことを悪く言ったが、私は冷や汗が止まらなかった。
やばい。
確実に私の副業のことは彼女に伝わるだろう。
産休から復帰されると私が困る。考えがぐるぐると空回りして、思考がまとまらない。
データの移動が終わると、そそくさと退席した。
コネをつくるどころではない。
この何日か息をひそめて会社の様子を窺っていたが、ばれた様子はない。
やっと落ち着いて仕事ができるようになった。
自分がまだ会社に依存していて、独立の覚悟ができていないことを思い知らされた。
自分の情けなさに数日間落ち込んでしまった。
この3カ月のあいだ、勢いだけで サラリーマン兼業個人事業主をやってきた。
落ち着いて考える時期が来たのかもしれない。