サラリーマン兼業個人事業主となってから、事業関連で知人と定期的に飲みに行くことが多くなった。彼は医療法人関連でサラリーマンとして働いており、愚痴を聞くこともある。大抵はどこの会社でもある話ばかりだ。
先日会ったときの彼の話には、今までと違い特筆するものがあった。
今のこの時期、4月になると企業の前年度末までの決算の見通しが社内で発表されるところもあるだろう。
彼の医療法人(病院と関連会社)は、”いろいろな要因”で患者が半減した。
4月1日の年度初めの朝礼で、院長が訓示した。
「今の日本は長く不景気が続いて、この病院もその影響を受けて患者数が大幅に減ってしまった。病人が減ることは経営的には問題だが、病人が少ないことは地域密着型の医療を提供するという経営方針を掲げる当院には喜ばしいことだ」などなど。
長い演説を聴かされたらしい。
「不景気になったら病人が減るって言うんだ。開いた口がふさがらなかった。市役所にいって病気や事故の統計を調べれば、この町の病人や患者が半減したかどうかすぐバレるのに、何が言いたいんだ。見え透いた言い訳しやがって・・・・ああ、もちろん減っちゃいない。うちの病院に来ずに、他の病院に行っているだけだよ!!」
彼の病院の患者が半減した原因はもちろんある。
院長は親から引き継いだ「3代目」だ。別に医者になりたかったわけではないらしい。
面倒な救急患者は断り、ほとんど自意識のない介護施設の高齢者をいろいろな病名をつけて入退院を繰り返させて、診療報酬を稼いでいる。(介護施設との間でお金が取り持つ「連携」が必要)
なにを聞いても「あーー、うーー」としか言わない患者に、病院としてやれることはほとんどない。(診療報酬稼ぎの点滴と床ずれ防止くらいとのこと。あとは適当につけた病名のための意味のない薬)
本当は救急対応などやりたくないらしいが、救急医療の登録をしておけば結構な補助金がもらえるらしい。
しかし、楽な患者ばかり相手にしていると、院内の医者・スタッフの技術レベルは知らないうちに下がっていく。
他の病院では普通に実施する手術や処置を、外部の医者を呼ぶか他院に紹介するしか対処できないところまで落ち込んだ。
そういった噂はどこかで広まるもので、それで患者が減ったのだろうと彼は言った。
その演説の日から、医局と看護部に「入院患者達成数」と「外来患者受付数」が毎日張り出されるようになった。
「患者は”営業力”とか”ノルマ”で増やすものではないだろう。地域の病人が少ないのが喜ばしいと言ったくせに」彼は自嘲気味に笑った。
ただし、農業が基幹産業であるもっと田舎の病院では、田植えと稲刈りの時期は「病人」が減るらしい。忙しくて病院に行く暇がないのだ。(笑)
(高齢者は暇なときに病院に遊びに行くのだという彼の談)
彼の自嘲交じりの笑い話だが、個人事業ながらも「経営のトップ」に立つものとしては、見過ごせない含蓄があると感じた。
開業届けを提出してから3ヶ月以上が経過した。
自分の事業はまだ数万円の売上しかない。もちろん起業してすぐに仕事が軌道に乗ることはないことはわかっている。
しかし、サラリーマン兼業のため時間がとれないことを言い訳にしている自分がいる。
結果が全てなのだ。給与に依存した現状を打破しなければならない。
1日8時間睡眠を続けている自分は、「死にもの狂いの努力」が欠けているのだ。
見え透いた言い訳は見苦しいだけだ。そう自分に言いきかせた。